調講演・特別講義

基調講演


ジョセフ・ロビアンコ教授「オーストラリアの日本語:黄金時代の再来か?」
7月14日, 9:30-10:45, Clancy Auditorium

要旨:昨今のオーストラリアの言語教育政策について、特に、主要アジア言語の教育に関連しては、喜ばしいことが数多くあり、嘆くべきことがいくつかある。言語教育は、新たに公的な予算が付き、マスメディアも好意的なニュースを発信し、世間一般の態度も持続的に肯定的だ。オーストラリアの言語教育、言語政策の殿堂に特別な位置を占める日本語にとっては、実に喜ばしいことである。他の殆どの教育制度と違い、オーストラリアにおける日本語の価値は、そのタイミングの良さ、評判の良さ、そして、重要性による。日本語は、決定的な瞬間に現れ、知名度を臨界点にまで上げ、深刻な問題を打ち破った。日本語はオーストラリア人が真に学ぶ理由を見つけた初めての外国語であった。日本語は数多くのオーストラリア人が心から価値を見いだした初めてのアジア言語であった。今でも、オーストラリア社会が肯定的なメッセージを感じた、西洋規範とは異なる外国言語、文化に、 日本語を通じて、初めて接するオーストラリア人は増加中である。そして今、楽観的になる理由はあるが、懸念すべき理由もある。日本語がその魅力を持続しているのは頼もしい限りで、オーストラリアが国家に根ざした日本語、日本研究の資質を持っていること、そして、日本と日本人を知ることに対する公共投資がオーストラリアの教育的文化的制度に深く埋め込まれていることは意義深い。また将来的には、日系日本語話者の増加に伴い、日本語がゆっくりではあるが着実にコミュニティー言語へと移行してきていることも意義がある。一方、学校教育の現場では、支援が不十分で、責任の所在が明確でない、貧窮化した、しかも上級に繋がらない、持続性のないプログラムが過剰生産され、そこで日本語を学び、失敗した体験を持つオーストラリア人が増えていることも事実である。

この講演では、オーストラリアの日本語を、他と、特に他の英語圏の場面と比較し、さらに、日本、アジア各国における英語の役割に関連づけ、広く考察しながら、私がオーストラリアの「日本語政策社会学」と呼ぶものを検討する。オーストラリア、日本、そして、アジア各国、さらに、世界が体験を分かち合うこの言語文化の社会学は、いま、徹底的に変わっている。そして、楽観と自信の横には、不安要素と、困難ながら意欲をそそられる将来が待っている。

プロフィール:ジョセフ・ロビアンコ教授は、オーストラリアの言語教育、言語政策研究の第一人者で、オーストラリア政府の言語政策に様々な提言を行なってきただけでなく、タイ、アイルランドなどの言語政策にも関わり国際的に活躍している。教授は、著書も数多く、オーストラリアの日本語教育の状況を論じたものも多い。(詳細はリンク「プロフィール」を参照)ロビアンコ教授は現在メルボルン大学、言語・リタラシー学科の学科長を勤め、名誉ある The Australian Academy of the Humanitiesの評議員である。

ロビアンコ教授基調講演のパワーポイントのリンクです。


メリー・エリザベス・ベリー教授「都市生活は幸せだったのか。徳川時代の日本の都市体験」(カリフォルニア大学バークリー校)
7月15日, 9:30-10:45, Clancy Auditorium

要旨:日本の都市生活者の人口が1580年から1700年の間に全人口の約3%から12%にまで増加したのは、近世社会で最も劇的な人口統計学上推移のひとつである。本講演では、当時の生活者達がこの社会変革をどのように体験したかを、実証的かつ質的な証拠に当たり、概説する。特に、身分の異なる新都市生活者達を結び付け、あるいは、隔てた不安感と満足感の原因を探る。

プロフィール:メリー・エリザベス・ベリー教授はカリフォルニア大学バークレー校の東アジア史主席教授及び史学部長。以前はミシガン大学でも教鞭を執っており、京都大学の客員教授も務めていた。ベリー教授は戦国時代及び徳川時代の研究で名高く、中でもHideyoshi (1982)での革新的な研究と1995年にバークレー文学賞を受賞したThe Culture of Civil War in Kyoto (1994)で知られている。また、ベリー教授の最新作、Japan in Print: Information and Nation in the Early Modern Period (2006)も徳川の台頭に関する歴史学者達の理解に多大なる影響を与えており、有名なアジア研究誌においても反響を呼んだ。ベリー教授は、日本研究分野への数多くの貢献に加え、日本研究学会及びアメリカ歴史学会でも様々な重要な役職を担っており、2004年〜2005年のアジア学会会長にも選出された。


ジェイ・ルービン教授「視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚-タイラー訳「源氏物語」のイメージ」(ハーバード大学)
7月16日, 9:30-10:45, Clancy Auditorium

要旨:ロイヤル・タイラー氏による「源氏物語」の新訳(2001)は、おそらくこれまでで最も素晴らしい日本語から英語への文芸翻訳作品であろう。氏の翻訳をかくたらしめている要素のひとつは、すばらしく官能的な世界像を紙面に再現した点である。一見しただけでも、タイラー氏が、紫式部の11世紀の作品中にあるイメージを、まず自らの心に描いてから文章を書き始めていることがわかる。氏は登場人物がどこに立っている(あるいは、多くの場合臥している)のかがわかっているし、着物のかさねの色目も知っている。また氏は周囲からの音が聞こえているし、薄暗い回廊から漂ってくる香も感じている。偉大な翻訳というのは、単にある言語の1ページを他の言語の1ページに移行したものではなく、翻訳者の活発な想像力により生まれるものである。このようにして生まれたものでなければ、その翻訳は文学とは呼べない。本講演では、タイラー氏をモデルに、翻訳者の役割について検討する。

プロフィール:タカシマ日本人文科学教授としての数年を経て、ジェイ・ルービン教授はハーバード大学にて日本文学研究教授として研究、発表を続けている。1993年にハーバード大学で教鞭を執り始める前は、ワシントン大学にて日本文学教授を務めていた。著書の”Injurious to Public Morals: Writers and the Meiji State”は近代歴史学者の間で高く評価されているが、ルービン教授の著書で最もよく知られているのは、近・現代日本小説の翻訳やエッセイだろう。特に、夏目漱石と村上春樹の翻訳及び研究は有名である。村上春樹作「ねじまき鳥クロニクル」の翻訳で、1999年に日米友好基金日本文学翻訳賞を、2003年には野間文芸翻訳賞を受賞した。著書”Murakami Haruki and the Music of Words” は村上春樹研究の最先端であり、2007年に日本語に翻訳された(邦題「ハルキ・ムラカミと言葉の音楽」)。


特別講義


第二言語習得

白井恭弘教授 「第二言語習得研究と日本語教育:機能主義的アプローチ」 (ピッツバーグ大学)
James Lee 教授 “Processing Instruction and the Second Language Acquisition of Japanese”  (ニューサウスウェールズ大学)

言語評価

Chris Davison 教授 “Assessment for Learning” (ニューサウスウェールズ大学)

日本語教育

尾崎明人教授 「日本語教育の社会的文脈と日本語教育政策」 (名古屋外国語大学)
李徳奉教授 「コミュニケーション能力の相互的・総合的・広域的属性について」 (同徳女子大学)


Last Updated: 16 July, 2009

2009年7月13日〜16日

共催:ニューサウスウェールズ大学・シドニー大学

(オーストラリア、シドニー)